「外郎売りの科白」

(ういろううりのせりふ)

アナウンス、司会者の練習のHPの「外郎売り」を中心に参考にさせていただき、ウィキペディア「外郎売」から一部漢字などを使用しています。両方で表現の違いもあり、両方が混ざっている状態です。

「外郎売りの科白」本文に読み仮名をつけました。
なお、ふりがなの関係で、きれいに観られるようにブラウザの調節をしてください。
印刷してどこにでも貼れるように、注釈や現代語訳などはつけませんでした。
印刷用の「外郎売りの科白」をご用意いたしました。【「外郎売りの科白」印刷用
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ふりがなは、私の教本に忠実に振りましたが、間違っているようなら、ご一報を。
あと、鼻濁音は、「カ゜、キ゜、ク゜、ケ゜、コ゜」で表しました。

「外郎売りの科白」
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二代目 市川団十郎


 拙者親方と申すは、お立ち会いの内にご存知のお方もござりましょうが、
 せっしゃ おやかたと もーすは、 おたちあいのうちに  ごぞんじの おかたも ござりましょーカ゜、

お江戸を発って二十里上方、 相州小田原一色町をお過ぎなされて
おえどをたって 20り かみカ゜た、     そーしゅー おだわら いっしきまちを おすキ゜なされて

青物町を上りへおいでなさるれば、欄干橋虎屋藤衛門、
あおものちょーを のぼりへ おいでなさるれば、 らんかんばし とらや とーえもん、

只今では剃髪致して円斎と名乗りまする。
ただいまでは てーはついたして えんさいと なのりまする。

 元朝より大晦日までお手に入れまするこの薬は、
 がんちょーより おーつコ゜もりまで おてにいれまする このくすりは、

昔、珍の国の唐人、外郎という人、わが朝へ来たり、
むかし、ちんのくにの とーじん、 ういろーとゆーひと、わカ゜ちょーへきたり、

帝へ参内の折りからこの薬を深く籠め置き、
みかどへ さんだいのおりから このくすりを ふかくこめおき、

用ゆる時は一粒ずつ冠の隙間より取り出だす。
もちゆるときは いちりゅーずつ かんむりのすきまより とりいだす。

依ってその名を帝より「透頂香」と賜る。
よって そのなを みかどより 「とーちんこー」とたまわる。

即ち文字には「頂き・透く・香ひ」と書いて「透頂香」と申す。
すなわち もんじには いただき すく におい とかいて 「とーちんこー」ともーす。

 只今では、この薬、殊の外、世上に広まり、方々に偽看板を出だし、
 ただいまでは、このくすり、ことのほか せじょーにひろまり、ほーぼーに にせかんばんをいだし、

イヤ小田原の、灰俵の、さん俵の、炭俵のと、色々に申せども、
いや おだわらの、はいだわらの、さんだわらの、すみだわらのと、いろいろにもーせども、

平仮名をもって「ういろう」と記せしは、親方円斎ばかり。
ひらカ゜なをもって ういろーと しるせしは、おやかた えんさいばかり。

もしやお立ち会いの内に、熱海か塔ノ沢へ 湯治にお出でなさるるか、
もしや おたちあいのうちに、あたみか とーのさわへ とーじにおいでなさるるか、

又は、伊勢御参宮の折からは、必ず門違いなされまするな。
または、いせ ごさんク゜ーのおりからは、かならず かどちカ゜いなされまするな。

お上りならば右の方、お下りなれば左側、八方が八つ棟、
おのぼりならば みキ゜のかた、おくだりなれば ひだりカ゜わ はっぽーカ゜ やつむね、

面が三つ棟、玉堂造り、破風には菊に桐の薹の御紋を御赦免あって、
おもてカ゜ みつむね、ぎょくどーづくり、はふには きくに きりのとーの ごもんを ごしゃめんあって、

系図正しき薬でござる。
けーず ただしき くすりでござる。

 イヤ最前より家名の自慢ばかり申しても、
 いや さいぜんより かめーの じまんばかり もーしても、

ご存知ない方には、正身の胡椒の丸呑み、
ごぞんじないかたには、しょーしんのこしょーのまるのみ、

白河夜船、されば一粒食べかけてその気味合いをお目にかけましょう。
しらかわよふね、されば いちりゅー たべかけて そのきみあいを おめにかけましょー。

先ずこの薬をかように一粒舌の上にのせまして、
まず このくすりを かよーに ひとつぶ したのうえに のせまして、

腹内へ納めますると、イヤどうも言えぬわ、
ふくないへ おさめますると いや どーもいえぬは、

胃・心・肺・肝が健やかに成りて
い・しん・はい・かんカ゜すこやかになりて

薫風喉より来たり、口中微涼を生ずるが如し。
くんぷー のんどより きたり、こーちゅー びりょーをしょーずるカ゜ごとし。

魚・鳥・茸・麺類の食い合わせ、その外、万病速効ある事神の如し。
ぎょ ちょー・きのこ・めんるいの くいあわせ、そのほか、まんびょー そっこーあること かみのごとし。

さて、この薬、第一の奇妙には、
さて、このくすり、だいいちのきみょーには、

舌の廻ることが、銭独楽が裸足で逃げる。
したのまわることカ゜、ぜんコ゜まカ゜ はだしで にケ゜る。

ひょっと舌が廻り出すと、矢も盾も堪らぬじゃ。
ひょっと したカ゜ まわりだすと、やもたても たまらぬじゃ。

 そりゃそりゃ、そらそりゃ、廻って来たわ、廻って来るわ。
 そりゃそりゃ、そらそりゃ、まわってきたわ、まわってくるは。

アワヤ喉、サタラナ舌に、カ牙サ歯音、
あわやのんど、さたらなぜつに、かケ゜さしおん、

ハマの二つは唇の軽重、開合さわやかに、
はまの ふたつは しんの けいちょー、かいコ゜ー さわやかに、

あかさたなはまやらわ、おこそとのほもよろお。
あかさたな はまやらわ、おこそとの ほもよろお。

一つへぎへぎに へぎ干し はじかみ、盆豆・盆米・盆牛蒡、
ひとつ へキ゜へキ゜に へキ゜ほし はじかみ、ぼんまめ ぼんコ゜め ぼんごぼー

摘み蓼・摘み豆・摘み山椒、書写山の社僧正、
つみたで つみまめ つみざんしょ、しょしゃざんの しゃそーじょー

小米の生噛み、小米の生噛み、こん小米のこ生噛み。
こコ゜めの なまカ゜み こコ゜めのなまカ゜み こんこコ゜めの こなまカ゜み。

繻子・緋繻子・繻子・繻珍、
しゅす・ひじゅす・しゅす・しゅちん、

親も嘉兵衛 子も嘉兵衛、親嘉兵衛・子嘉兵衛、子嘉兵衛・親嘉兵衛、
おやもかへー こもかへー、おやかへー こかへー こかへー おやかへー、

古栗の木の古切り口、雨合羽か番合羽か、
ふるくりのきの ふるきりくち、あまカ゜っぱか ばんカ゜っぱか、

貴様の脚絆も皮脚絆、我等が脚絆も皮脚絆、
きさまの きゃはんも かわきゃはん、われらカ゜ きゃはんも かわきゃはん、

尻皮袴のしっ綻びを、三針針長にちょと縫うて、
しっかわばかまの しっぽころびを、みはり はりなカ゜に ちょと ぬーて、

縫うてちょとぶん出せ、
ぬーて ちょと ぶんだせ、

河原撫子・野石竹、野良如来、野良如来、三野良如来に六野良如来。
かわらなでしこ のぜきちく、のらにょらい のらにょらい みのらにょらいに むのらにょらい、

一寸先の御小仏に 御蹴躓きゃるな、細溝にどじょにょろり。
ちょっと さきの おこぼとけに おけつまずきゃるな、ほそどぶに どじょ にょろり。

京の生鱈 奈良生真名鰹、 ちょと四五貫目、
きょーの なまだら なら なま まなカ゜つお、ちょと し ご かんめ、

お茶立ちょ茶立ちょちゃっと立ちょ。茶立ちょ、青竹茶筅でお茶ちゃっと立ちょ。
おちゃたちょ ちゃたちょ ちゃっと たちょ ちゃたちょ、あおたけ ちゃせんで おちゃ ちゃっと たちゃ。 

 来るは来るは何が来る、高野の山の 御柿小僧、
 くるは くるは なにカ゜くる、こーやのやまの おこけらこぞー、

狸百匹 箸百膳 天目百杯 棒八百本。
たぬき ひゃっぴき はし ひゃくぜん てんもく ひゃっぱい ぼー はっぴゃっぽん。

武具・馬具・武具馬具、三武具馬具、合わせて武具馬具、六武具馬具。
ぶク゜・ばク゜・ぶク゜・ばク゜・みぶク゜ばク゜、あわせて ぶク゜・ばク゜・むぶク゜ ばク゜。

菊・栗、菊栗、三菊栗、合わせて菊栗、六菊栗。
きく・くり・きく・くり・みきく くり、あわせて きく・くり・むきく くり。

麦・塵、麦塵、三麦塵、合わせて麦塵、六麦塵。
むキ゜・ごみ・むキ゜・ごみ・みむキ゜ ごみ、あわせて むキ゜・ごみ・むむキ゜ごみ。

あの長押の長薙刀は、誰が長薙刀ぞ。
あの なケ゜しの なカ゜なキ゜なたは、たカ゜ なカ゜なキ゜なたぞ。

向こうの胡麻殻は荏の胡麻殻か真胡麻殻か、
むこーの ごまカ゜らは えの ごまカ゜らか、まごまカ゜らか、

あれこそ本の真胡麻殻。
あれこそ ほんの まごまカ゜ら。

がらぴいがらぴい風車、起きゃがれ小法師、起きゃがれ小法師、
がらぴー がらぴー かざク゜るま、おきゃカ゜れ こぼし おきゃカ゜れ こぼーし、

昨夜も溢してまた溢した。
ゆんべも こぼして また こぼした。

たあぷぽぽ、たあぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、 
たーぷぽぽ、たーぷぽぽ、ちりから、ちりから、つったっぽ、

たっぽたっぽ一丁蛸、落ちたら煮て食お、 
たっぽ たっぽ いっちょーだこ、おちたら にてくお、

煮ても焼いても食われぬ物は、五徳・鉄灸・金熊童子に、
にても やいても くわれぬものは、ごとくてっきゅー・かなク゜まどーじに、

石熊・石持・虎熊・虎鱚、
いしくま・いしもち・とらくま・とらきす、

中でも 東寺の羅生門には 茨木童子が腕栗五合 掴んでお蒸しゃる。
なかでも とーじの らしょーもんには いばらきどーじカ゜ うでくり ごんコ゜ー つかんで おむしゃる。

彼の頼光の膝元去らず。
かのらいこーの ひざもと さらず。

 鮒・金柑・椎茸、さだめて後段な、
 ふな・きんかん・しいたけ、さだめて ごだんな、

蕎麦切り・素麺、饂飩か愚鈍な小新発知。
そばきり、そーめん、うどんか、ぐどんな こしんぼち。

小棚の、小下の、 小桶に、小味噌が小有るぞ、小杓子、小持って、
こだなの、こしたの、こおけに、こみそカ゜、こあるぞ、こしゃくし、こもって、

小掬って小寄こせ、おっと合点だ、心得田圃の川崎、
こすくって、こよこせ、おっと がってんだ、こころえ たんぼの かわさき、

神奈川、程ガ谷、戸塚は、走って行けば灸を摺りむく、
かなカ゜わ、ほどカ゜や、とつかは、はしっていけば やいとをすりむく、

三里ばかりか、藤沢、平塚、大礒がしや、
さんりばかりか、ふじさわ、ひらつか、おーいそカ゜しや、

小磯の宿を七ツ起きして、早天早々、相州小田原、透頂香。
こいその やどを ななつ おきして、そーてん そーそー そーしゅー おだわら とーちんこー。

隠れござらぬ貴賎群衆の、花のお江戸の花ういろう、
かくれござらぬ きせん ぐんじゅの、はなの おえどの はな ういろー、

あれあの花を見て、御心を御和らぎやと言う。
あれ あのはなをみて おこころを、おやわらぎゃという。

産子、這う子に至るまで、此の外郎の御評判、ご存知ないとは申されまい
うぶこ、はうこに いたるまで、この ういろーの ごひょーばん、 ごぞんじないとは もーされまい。

まいつぶり、角出せ、棒出せ、ぼうぼう眉に、
まいつぶり、つのだせ、ぼーだせ、ぼーぼーまゆに、

臼・杵・擂鉢、ばちばちぐゎらぐゎらと、
うす、きね・すりばち、ばちばち ぐわら ぐわらと、

羽目を弛して今日お出での何茂様に、上げねばならぬ、売らねばならぬと、
はめを はずして こんにち おいでの いずれもさまに、あケ゜ねばならぬ うらねばならぬと、

息勢引っぱり、東方世界の薬の元締め、薬師如来も照覧あれと、
いきせー ひっぱり、とーほー せかいの くすりの もとじめ、やくしにょらいも しょーらんあれと、

ホホ敬って、外郎は、いらっしゃりませぬか。
ほほ うやまって、ういろーは、いらっしゃりませぬか。