生きてりゃあ、つらいときもあっけど、いいときも来っから。つらいときは笑う といい。

ひとつの嘘が新たな嘘を生む。この連鎖は気持ちのいいものではなかったが、・・・

千紗子の話を信じた老婆は、同情するようなまなざしを向けてきた。
「生きてりゃあ、つらいときもあっけど、いいときも来っから。つらいときは笑うといい。無理してでも笑ってると、しあわせがやってくる。そんなもんだ」
「そんなものですかね?」
「ほんと、ほんと。そんなもんだよ。難しいこと考えねえで、いい空気吸って、うまいもん喰って、よく寝る。そんでよく笑うこと。そうすりゃ、心も体も健康になっから」
老婆はけらけらと笑った。

北國浩二著『嘘』(2011.7.22第1版第1刷。PHP 研究所)より。

嘘をつくことは必要だが、嘘が増えるほど、その上に築かれる人間関係が不安定 になる。

「そうね、いやなことは思い出さなくてもいいわよね」
 千紗子はほっと胸を撫で下ろした。絵本作家だから、話を創作するのは苦ではない。けれど、その嘘をひとりの人間に一生信じこませねぱならないと思うと、重圧がのしかかるのだった。
 千紗子は拓未に信頼される存在になりたかった。だから、できるだけ嘘はつきたくなかった。