雨の音は、実にたくさんのことを教えてくれる

いつもなら、ぶつかるまで分からない路上駐車の車の存在や、手で触れることのできない民家の屋根の高さ、けとばさなければわからない路肩の空き缶、遠慮してなるべく触らないようにしているよその家の文の材質・・・・・・。それら、普段は黙っている物たちが、雨雫が当たることで音を授かり、「雨語」を話し出す。
「屋根でござる。高さはこのぐらいで、材料はトタンでござる」
「おいら空き缶。こんなとこに捨てられちまって、冷てえぜ」
「イェー、おれポルシェ。雨に濡れた形もいけてるだろ?」
とまあ、そんなことを言っているのかどうかはわからないが、ともかく、雨が地上に新たな音を届けると、街全体が目覚め、さまざまなものの存在を私の耳に伝えてくれるのだ。

三宮麻由子著『ルポエッセイ 感じて歩く』岩波書店、2012年6月6日 第1刷

シーンレス(全盲)の著者が感じる世界。目の見えているものよりよっぽど多くの物を見ているという感じがする。他のエッセイも手にしてみたい。