浄土宗摂取山念佛寺の施餓鬼会での法話です。檀家の家の前にある「嫁の皿」という名前の木。何かと思えば、イヌツゲでした。それを踏まえての法話です。阿彌陀佛を心に描くことでこの世のあとの極楽浄土への誕生につながる。
念佛寺施餓鬼会に皆さんようこそお参りくださいました。毎日本当に暑い日が続いています。
NHKの朝のドラマ「らんまん」をご覧になってますか
植物学者・牧野富太郎をモデルにして描かれています。「日本の植物学の父」として知られる彼は、ドラマの中では牧野万太郎として登場しています。「雑草という草はない」という言葉はよく知られており、昭和天皇もその言葉をもとに発言されています。牧野が命名した植物は2500種以上、新種発見も600種あまりとされています。牧野が命名したものに、「ヤマトグサ」「ジョウロウホトトギス」「スエコザサ」「ハルジオン」「ムジナモ」「ワルナスビ」「ノボロギク」「ハキダメギク」などがあります。
ところで「嫁の皿」ってみなさんご存じですか。ある法事の席で花の話をしているときに初めて聞きました。何だろうかとその家の前を見ると、庭木で垣根のように利用されていた「イヌツゲ」でした。牧野富太郎植物図鑑には「犬つげは、ツゲに似ているが下品でツゲのように役立たないことによって名付けられたもの」と解説されているだけでした。高価なツゲはクシでよく知られますが、その代用品として印鑑や版木などに使われることもあります。さらにネットで調べてみると、イヌツゲの別名として、ヤマツゲ、オオツゲ、ネジノキ、ビンカラズ、ヨメノサラなどが書いてありました。 嫁の皿というのは「憎い嫁におかずを乗せる皿はイヌツゲの葉の大きさ(小指の先ほど)で十分」という意味だろうとありました。嫁いびりのことばだったのでしょう。嫁と姑との対立、現在でいえばパワハラになりそうです。 しかし、このイヌツゲも樹皮や根は生薬として黄疸や潰瘍に、葉はできものに用いられるそうです。枝や葉を煮出してみると飴色のきれいな色になるそうです。イヌツゲの花言葉は「魅惑」だというのもうなづけそうですね。
最近の報道で、日本の女性の地位、ジェンダーギャップ指数2022が内閣府から発表されました。日本は146か国中116位で、先進国で最下位、アジア諸国の中でも韓国や中国、ASEAN諸国より低い結果だそうです。教育や健康面ではトップクラスでも、経済での管理職の男女比などで121位、さらに政治参加に至っては139位という後がないレベルです。
法然上人は建暦2年(1212年)正月23日、お亡くなる二日前に記された「一枚起請文」の中で、「たとひ一代の法をよくよく学すとも、一文不知の愚鈍の身になして、尼入道の無知のともがらに同じうして、知者のふるまいをせずして、ただ一向に念仏すべし」と述べられています。
「尼入道」「無知」ということばは、女性などを蔑んでいるようにもみえますが、そうではありません。 「念仏往生を信じようと思う人は、たとえ釈尊一代のすべての教えを深く学んだ人であっても、何も知らない愚かな人や、教えを深く学んだことのない、髪をそり落として仏門に入った尼や在俗のまま剃髪した入道などと同じように、自分が何でも知っているというような振る舞いをしないで、ただひたすら念仏を称えなさい。」
煩悩にとらわれ欲望をコントロールできないのが、普通の人間であり、そういう人たちが仏になる道が、阿弥陀仏の本願によって救われていく称名念仏であり、浄土宗の求める道だと考えられました。
浄土宗で中心となるお経の一つに「無量寿経」があります。その「四十八願」の誓いの中で、第3願に「もし我れ佛を得たらんに、国中の人天、悉く真金色ならずんば、正覚をとらじ」、第4願に「もし我れ佛を得たらんに、国中の人天、悉く形色不同にして、好醜あらば、正覚をとらじ」、第35願に「もし我れ佛を得たらんに、十方無量不可思議の諸仏世界に、それ女人あって、わが名号を聞きて、歓喜信楽して、菩提心を発し、女身を厭悪せんに、寿終の後、また女像とならば、正覚をとらじ」と述べています。つまり、国土に住む人々が一人でも金色に輝いていなかったり、姿かたちがまちまちで、美しいとか醜いという差があるようなら、私は仏になるわけにはいかない。あらゆる仏の世界に住む女性たちの中で、悟りを開くのに女身を厭うものがいたなら、命尽きたのち、再び女性の姿に生まれ変わらないようにしよう。と誓われています。まさに極楽浄土は男女の違いだけにとどまらず、すべてが平等の世界なのです。
ご先祖様たちは、いち早く、極楽浄土の平等で平安なる世界で、お過ごしになっている様子を思い浮かべながら、最後に皆様とともに十念を称えて法話を終わりたいと思います。
如来大慈悲哀愍護念、同称十念。(約10分)